私はマルチタスクが苦手である。
が、普通に暮らしていてそんなことを言っていられるわけもない。苦手だからやらなくて済むというほど世間が甘くないことも十分に知っている。そんなもんで、デスクワークひとつでも、音声で耳をふさぎ、いろいろ気になることを無理くり「一個に集中、集中せよ!」と唱えながら進めている。しかし、それでもなお、様々なものに気を散らかして効率悪く日々過ごしているわけである。そんなこんなで過ごしながら、やっとこさっとこ年度を越した。気温も上がって生き物も動き出してきたので、水中写真撮りに出撃してみることにした。
ターゲットはムサシノジュズカケハゼ。多くの魚はオスが派手になるのに対して、この魚はメスが派手になるタイプのちょっと変わった魚で、ながらく繁殖行動を観察してみたかった魚である。ちょうど、この時期が産卵期だし、生息地も近く、新たな水中機材のテストにもってこいである。現場につき、意気揚々と撮影に挑む。しかし、むずい。大変にむずかしい。

久しぶりすぎて水中の小物撮りの感覚が完全に欠落しておりました。こんなにピントをあわせるのって難しかったかな…底泥と魚の色が一緒すぎて液晶見ながらピントあわせるなんてほぼ不可能じゃないか。画面には黒茶色い一様なものしか映っていないように見える。少なくとも劣化が進む私の眼にはそうとしか見えなかった。途中から、構図もへったくれもなくメクラ打ち戦法に切り替え、なんとか何枚かは見られるのが取れた感じでありました。そういえば、しばらく写真を撮っているうちに、画像がもやがかかったような解像感になってしまっていた。これも忘れていたことだけれど、湧水がでる川のたまりはなんだか底から気泡がたくさん出て、レンズにくっつくのだった。完全に忘れていた。備忘録としてメモっておこう。
魚自体はけっこう、というか今まで見た中で一番いた。水中でこんなに多くのムサシノジュズカケハゼを見たのは初めてだと思う。この魚、産卵期は3月ごろから始まると書かれていることが多い気がするが、個人的な感覚としてはピークは4月後半から5月なんじゃないかと思う。色づいているメスはいなくもなかったが、ごくわずかだった。うっすら色づき始めているものもいたが、本気のメスはそんなもんじゃないはずだ。うーむ、週一くらいで見まわるかな…。
しかし、水中世界、撮影している間は時間を完全に忘れますな。これですよ。これ。水中にいったん入るとそこは異世界。音も文字情報もない。PCも携帯も触れないし、気にならない。魚を見つけて観察するだけの究極のシングルタスク。しかも有意義。気づいたら2時間くらいは経っていた。さらに、精神的にすごくすっきりしている。短時間ではあるけれど、デジタルデトックスとやらをするってこういうことなのかな…なんてちょっと思ったしだいであります。

